(2020-7-19更新)

「終身雇用制度が崩壊する」

こんな話を耳にしても、珍しく思わない人もいると思います。

実際、昔に比べて「○○社がリストラ」というニュースが流れることが多いですが、そもそも終身雇用制度はどんな仕組みで、会社側・労働者側にどれだけのメリットがあるのでしょうか?

今回は、日本独自と呼ばれている終身雇用制度のメリット・デメリットについて解説します。

終身雇用制度とは

終身雇用制度

採用した従業員を定年まで雇用し続ける制度のことで、新卒で入社したら会社によほどのことが無い限り解雇されない日本独自の慣行です。

戦後の高度成長期には、労働力不足から大企業を中心に長期雇用が慣習となって広がり、また、労働組合による団体交渉などで「解雇がしにくい=終身雇用」として定着されました。

悪く言うひとはいますが、定年まで雇用してもらえることで、「会社のために頑張る」「辛くても辞めない」などのメリットがあるのは確かです。

不可欠な年功序列賃金制度

勤続年数や年齢に応じて賃金が上昇する制度で、若い時は給与が少ないが、長く働けば働くほど給与が増え、昇進・昇格されます。

このため、働きに見合う給与がもらえないと不満に思いがちですが、逆に、中高年になれば高い給与がもらえるので、長く働くことで生涯賃金が上がる特徴があります。

つまり、終身雇用を維持するためには、年功序列賃金が不可欠な制度で、この制度がないと、優秀な社員がどんどん転職してしましますが、年功序列賃金が転職を思いとどまらせる効果を持っているからです。

なぜ崩壊が叫ばれているのか?

終身雇用制度は、年功序列によって勤続年数や年齢で給与が上がるシステムなので、人件費が右肩上がりになります。

これを維持するためには、企業が成長を続けなければならないので、高度成長期が終わり、バブル崩壊で持続的な成長が見込めない時代には、この制度を維持することが難しくなってきました。

最近は、アベノミクスで大企業はそれなりに収益の確保できましたが、国内総生産(GDP)が1%程度しか成長しないと終身雇用を守ると経営に余裕がなくなり、競争力の低下に直結します。

巷では、経団連の中西会長の発言が話題に上がっているので紹介します。

「正直言って、経済界は終身雇用なんてもう守れないと思っているんです。どうやってそういう社会のシステムを作り変えていくか、そういうことだというふうにお互いに理解が進んでいるので(中略)人生100年時代に、一生一つの会社で働き続けるという考えから企業も学生も変わってきている」

2019-4-19 経団連中西会長

メリットは?

終身雇用制度のメリット

終身雇用が日本で定着したのは、企業だけでなく従業員にも多くのメリットがあったからです。

将来設計が立てられる

採用されれば定年まで働けるということは、人生のライフイベントに合わせた設計が立てられます。

例えば、終身雇用と年功序列賃金のおかげで、将来の給与を計算することができるため、子どもの教育費やマイホームの購入などの人生設計が成り立つのです。

労働者の長期育成ができる

会社は、新卒の学生を採用しても、即戦力として働けるまで時間をかけて教育します。
せっかく、多大の時間と費用をかけて教育しても、すぐ辞められたら元も子もない訳です。

新卒学生の場合、一人前になるには、職種にもよりますが3~5年はかかるのではないでしょうか。
この間の人件費や教育費を回収するには、長期働いてもらわないと割が合わないので、終身雇用制度がないと、じっくり教育することができなくなってしまいます。

また、中途採用で雇った転職者に対しても、新卒ほどでないにしろ、できる限り教育することができるのも、採用後は長く働くことを前提としているからです。

信頼関係が成り立つ

終身雇用制度は、定年までの雇用が保障されているので、「会社のため」と企業と社員が深い信頼関係を構築することができます。

例えば、意に沿わない配置転換や転勤などがあっても、通常は「納得できない」と転職してしまうところを、終身雇用があるため、辛くても乗り越えようと我慢します。

会社に協力的になる

また、会社の業績が悪化しても、コスト削減に協力的になったり、工夫や改善をして会社の利益に貢献したりして会社に対して協力的になれます。

逆に、業績が良い時や人手不足な時に、仕事の負荷が増えてしまっても、時間外労働などを頑張ってなんとか仕事を処理しようと頑張ってくれます。

会社が大変な時には協力するし、逆に良い時には利益を共有する、そんな共存共栄が成り立つのは定年までの雇用が約束されているからです。

デメリットは?

終身雇用制度のデメリット

いいことだらけに見える終身雇用制度ですが、実は深刻なデメリットも存在するのです。

革新的な発想が生まれにくい

終身雇用制度の下では、年齢と共に「それなりのポジション」が与えられます。

大きな失敗をしたり、勤務態度が悪くない限り、「課長代理」「課長補佐」など、組織として機能しているか疑わしいかったり、そもそも部下無しだったりするポジションや、資格制度で「課長待遇」など、何らかの待遇が用意されています。

このため、仕事上「失敗=非」とされるので、あえて「冒険」をしようとせず、たとえ良いアイデアがあっても、「リスクが多い」と敬遠されがちになってしまいます。

社員の成長が阻害される

「定年まで働ける」という安心感から、自己研磨を怠りがちになります。

社外の人脈構築などにアンテナを張り巡らすよりは、「会社から嫌われない」ことが第一になるので、上司の顔色を窺うようになり、「ゴマすり」や「イエスマン」になってしまう恐れがあります。

(下に続く)

人件費が高くなる

企業は、長期的にみると業績の波があります。
業績の良い時は従業員を多く雇用して、悪い時は雇用調整(解雇)するという「雇用の調整弁」が機能しなくなってしまいます。

また、40~50代の高給取りが、全体の人件費を押し上げることになってしまいます。
若い頃に安い給与で頑張って、やっと給与が上がったら「高給取り」と批判に耐えながら働かなければならないのも皮肉なことです。

雇用の流動性が失われてしまう

終身雇用の下で働いているということは、裏を返せば、転職者が少ないということです。

これは、労働者側も企業側もそうですが、

  • 労働者はなかなか転職しない
  • 企業は転職者の受け入れに積極的ではない

もちろん、事業拡大や退職者の欠員募集などはありますが、終身雇用制度では「幹部候補は新卒の生え抜きを優先」してしまう場合があります。

転職者が「外様」扱いされてしまうと、ますます転職する人が少なくなってしまうので、雇用の流動性が失われてしまいます。

(下に続く)

まとめ

いかがでしたでしょうか。

終身雇用は、高度成長期には「社員と企業の利害が一致」していましたが、低成長の現在ではひずみがでてきています。

また、海外では「転職=キャリアアップ」という考え方があり、グローバルで考えた時に、日本は取り残されてしまうことになります。

なお、2020年からは「同一労働同一賃金」がスタートします。
これは、正規雇用と非正規雇用者の待遇改善のガイドラインですが、これが浸透することで、終身雇用の見直しが進む契機になるのではと考えております。

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