(2020-6-27更新)

退職日が迫ってきた日に、総務から返却物のチェックリストがきた。

この返却物チェックリストには、プログラムの持ち出しができないとの記載があった。
このプログラムは毎日残業して作り上げたもので、転職先でも使おうと思っていたのに・・・。

自分で作ったプログラムは、退職時に返却しなければならないのか?

また、もし返却しなかったらどうなってしまうか不安ですね。

今回は、退職時に返却するものと持ち出した場合どうなるかを解説します。

企業の情報管理が厳しくなってきている

退職時返却物

企業の企業機密(※1)の管理は年々厳しくなってきています。

長年かけて開発した技術やノウハウは、会社の知的財産であり、この技術やノウハウがライバル社に渡ったら、ライバル社に追いつかれたり、多額の投資をして培った技術が真似されたりと、莫大な損害を受けてしまいます。

そこで、企業は社外への企業機密の持ち出しを防ぐため、退職者がこっそり持ち出せないように、在職中に得た情報などを返却させたり誓約書を出させたりするようになりました。

(※1)企業機密とは、企業の技術秘密、営業秘密などの、外部に対して公開できない財産的価値のある重要な秘密のことで、製造ノウハウや顧客、取引先情報などをいいます。

退職時に返却するもの

1.名刺

名刺

仕事上で交換した名刺は、顧客情報仕入先情報でもあり会社の財産なので、退職したら返却しなければなりません。

そうは言っても、無機質な名刺の束だけでは使い道がないので、会社によっては持ち出しを認めたり、名刺のコピーなら持ち出しを認められる場合があります。

うちの会社は緩いから、黙って持ち出しても大丈夫

たとえ、過去の退職者が名刺を持ち出していたとしても、勝手に持ち出したら後々トラブルになる恐れがあるので、持ち出しを希望する場合は、事前に総務・法務部門などに相談してからにします。

2.プログラム、設計図、文書、作品など

プログラムなど職務上作成したものは、就業規則や契約で社員に帰属するとの定めがない場合は、著作権法では職務著作(同法第15条)と呼ばれ、会社に権利が発生します。

仕事で作成した著作物

契約か就業規則で社員に帰属する決まりが

  • ある:社員のものになる
  • ない:会社のものになる

通常の会社では上記の取り決めがなく、プログラムなどの所有権が会社に存在するため、たとえコピーであっても、持ち出すことがないように気を付けてください。

なお、売上を集計するExcelのマクロなど事務部門で使うものであれば、データなどを含まない「コードの部分」だけなら持ち出しが認められる可能性があるので、事前に会社の許可を取りましょう。

法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。

著作権法第15条

3.社員証、入門証、社章など

社員証や入門証、その他IDカードなどは、退職後にも入門されてしまうなど悪用される可能性があるので、必ず返却が求められます。

また、社章や名札なども、退職後に「なりすまし」をされないために返却の必要があります。

4.健康保険証

社会保険証

健康保険証は退職日までしか使用できず、退職後に使用すると不正使用となるため必ず返却しなければなりません。

退職後も国民健康保険に加入しないで、社会保険に継続加入(任意継続)することができますので、国保の保険料と比較して安い方を選ぶことも賢い方法です。

社会保険に継続加入を希望する時は、退職後20日以内に申請しなければならないので、退職前に加入の健康保険組合に手続き方法を確認するなどの準備しておきましょう。

【関連記事】

退職後にする失業保険、国民健康保険、国民年金の手続き方法は?

退職後に社会保険の任意継続をした方が得になるパターンは?

5.定期券

定期券は、退職後に1日でも有効期限が残っていたら返却しなければなりません。

お金に関係するものは、金額の大小に関わらずしっかりしておく必要がありますので、「安いから返さなくてもいいや」と自己判断をしないように注意します。

ただし、定期券の残り日数が少なくなると、鉄道・バス会社に返しても払戻金がない場合があり、その場合は、「残り日数が少ないから使っていいよ」と言ってくれることもあります。

6.会社の経費で購入したもの

書籍や文房具など会社から支給されたものは、他の人に使い道がなくても返却します。

例えば、細かいかもしれませんが、使いかけのボールペンのような価値がないものでも、デスクの引き出しに置いて帰りましょう。

会社から貸与・支給されたものは全て返却する

また、技術者に多いことですが、会社の経費で買った専門書雑誌も、自分以外に読む人がいないとしても、持って帰ってはいけません。

なお、情報漏洩に厳しい会社では、経費で購入した手帳やノートなども返却物とされますので、その場合はプライベートな部分はシュレッダーをして返します。

7.制服、作業着、帽子など

制服や作業着、帽子などは、洗うかクリーニングしてから、退職日か後日返却します。

会社によっては、「捨てるから洗わないでいいよ」というところもありますが、その場合は最終出勤日に返却しましょう。

なお、総務部門から何を返却するか連絡が無かった場合は、こちらから問い合わせるようにして、言われたかったから貰ったという事がないようにします。

(下に続く)

企業機密を持ち出したらどうなる?

1.不正競争防止法

退職時に企業機密を持ち出した場合は、不正競争防止法により刑事罰の対象となることがあります。

実際には、不正競争防止法の要件は厳しく、次の3つの要件を満たしている必要がありますが、持ち出された企業側も黙っていることはなく、次に挙げる「労働契約に基づく損害賠償」や「窃盗罪」などで対抗してくることもありますので、持ち出さないように細心の注意が必要です。

  1. 秘密として管理されていること(秘密管理性)
  2. 有益な情報であること(有用性)
  3. 公然と知られていないこと(非公知性)

2.労働契約(雇用契約)に基づく損害賠償請求

労働者は、就業期間中は秘密保持義務を負っており、企業機密を持ち出した場合は損害賠償される恐れがあります。

では、退職後はどうかといいますと、就業期間中に知り得た情報を漏洩した場合には、秘密保持契約(誓約書)による損害賠償をされるとこがあります。

また、会社に損害が発生した場合は、別に損害賠償請求される可能性があります。

3.窃盗罪

退職時に限らず、会社のものを無断で持ち出すことは、窃盗罪として刑事罰の対象なりますので、くれぐれも持ち出したり、持って帰ったりしないように気を付けましょう。

(下に続く)

秘密保持誓約書(秘密保持契約書)

退職時に、秘密保持誓約書(秘密保持契約書)に署名を求める企業が多くなっています。

秘密保持誓約書とは、在職中に得た企業の技術秘密や営業秘密、または、ノウハウなどの企業機密を退職後も漏洩(ろうえい)しないことを約束する誓約書で、多くの企業が退職者に対して署名を提出させています。

特に営業職と技術職の人は、取引先の情報や技術ノウハウを持っていますので、転職後にライバル企業に知られてしまったら損害なので、漏洩させない自己防衛をしています。

転職先は伝えない

なお、退職時に転職先を聞かれることがありますが、よほどのことがない限り転職先を伝える必要ななく、転職先を伝えることで、転職先に悪評を流されたりする危険があるので、うっかり言わないようにしましょう。

なお、転職先を聞かれたときの対処方法は、以下関連記事を参照してください。

【関連記事】

退職時に転職先を聞かれた時の対処法と正しい答え方

(下に続く)

まとめ

いかがでしたでしょうか。

退職する時には、会社から貸与されていた物だけでなく、業務として作成したものも返さなければならないことがお分かりいただけたと思います。

長年働いて居ると、仕事の効率化のためのツールなどを作成する機会があると思いますが、基本的に会社から給料をもらいながら行ったことは、「自分で作った場合」でも、会社に権利が発生してしまいます。

また、社外の人たちと接する職種の場合、大量の名刺を頂いていると思います。
名刺は、「会社から貸与」されたものではなく、顧客や業者から頂いたものですが、業務として頂いたので会社に返す必要があります。

ただし、退職後も取引先や顧客の人たちと関係を保ちたいと、名刺やメールアドレスを持ち出したいと考える人は多いですが、黙って持ち出してはいけません。

「このくらい大丈夫」と自分の判断で持ち出してしまうと、会社から損害賠償されたり窃盗罪で訴えられたりする恐れがありますので、どんな些細なことでも、事前に法務・総務部門に確認をするようにしましょう。

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