(2020-6-19更新)
会社が倒産した場合、賃金(給与)はどうなるの?
「突然会社が倒産したら給料もらえるの?」
2016年の企業倒産件数は、年間で8,446件(東京商工リサーチ調べ)で、ここ数年はアベノミクス効果で倒産件数は減って来ていますが、それでも大きな会社に勤めていても定年まで安泰という時代ではなくなりました。
今回は、倒産した場合に未払いの給与はどうやって受け取ればいいか解説します。
未払いの給与の回収方法は2つ
勤めていた会社が資金繰りに窮して倒産した場合でも、賃金がまったく払われない(回収できない)と生活に困ってしまう人が出てしまうため、次の2つの手続きによって回収することができます。
- 破産手続で回収する
- 未払賃金立替払制度で回収する
破産手続で回収する
破産手続きとは、会社の財産を売却して債権者(従業員も含む)に分配することです。
一口に倒産と言っても、「破産」、「民事再生」、「会社更生」がありますが、「破産」を例にとると、破産手続によって企業の財産を処分(売却)して、債権者に分配が行われます。
破産手続開始前の3か月分の未払賃金と退職金は、抵当権に次ぐ高い優先順位で回収できますが、唯一の財産と呼べる土地や建物は、ほぼ抵当権が付いているために、先に回収されてしまい、残った財産にめぼしいものがない場合は、未払賃金が回収できなくなります。
この記事では、未払賃金立替払制度について詳しく解説します。
未払賃金立替払制度で回収する
未払賃金立替払制度とは
倒産により賃金が支払われないまま退職した労働者に対して、国が未払賃金の一部を立替払する制度です。
誰が立て替えてくれるの?
厚生労働省所管(管轄のこと)の独立行政法人労働者健康安全機構が立て替え払いしてくれます。
ずいぶん太っ腹な制度ですが、立て替えの原資は、労働者災害補償保険(労災保険)から賄われる公的保険制度です。
確かに倒産で賃金が払われないのも、一種の労災と言えばそうですね。
立替払の対象となる未払賃金は?
実は、未払賃金も全額が対象ではなく、退職日の6か月前の日から立替払請求の日の前日までの間に支払われるはずの賃金と退職金が対象です。
(出典:独立行政法人労働者健康安全機構「未払賃金の立替払事業」)
未払賃金は最大で80%まで回収可能
残念ながら全額回収ではありませんが、未払賃金と退職金が最大80%まで回収できます。
また、次の通り年齢によって回収できる金額の上限が決まっていますが、認定されれば、「回収金額の限度額」まで支払われるので、ありがたい制度です。
退職日における年齢 | 未払賃金総額の限度額 | 回収金額の限度額 |
45歳以上 | 370万円 | 296万円 |
30歳以上45歳未満 | 220万円 | 176万円 |
30歳未満 | 100万円 | 80万円 |
【計算方法】
(「未払賃金と退職金の総額」と「未払賃金総額の限度額」の少ない金額)×80%=回収金額
例)40歳で未払賃金100万円、退職金200万円の場合
(「100万円+200万円=300万円」と「220万円」の少ない金額=220万円)×80%=176万円
利用するための条件は?
立替金の支払いを受けるためには、次の条件をすべて満たすことが必要です。
- 1年以上事業活動を行っていたこと
- 倒産したこと(法律上の倒産と事実上の倒産を含む)
- 倒産の申立、または労働基準監督署への認定申請が行われた日の6か月前の日から2年の間に退職した者
- 2万円以上の未払賃金があること
- 破産手続開始の決定、または監督署長の認定日から2年以内に立替払の請求を行うこと
条件をすべて満たせば、アルバイトやパートでも支払いを受けることができます。
立替払の手続き方法
法律上の倒産の場合
1.証明者へ必要事項の証明を申請
破産管財人などの証明者に対して、立替払請求の必要事項についての証明を申請します。
【 倒産区分による証明者一覧 】
- 破産=破産管財人
- 特別清算=清算人
- 民事再生=再生債務者(管財人)
- 会社更生=管財人
なお、証明内容に不足がある場合は、労働基準監督署長へて確認申請をします。
証明内容は、主に「未払賃金」、「雇用年月日」、「退職年月日」、「生年月日」です。
2.申請書を労働者健康安全機構へ送る
破産管財人などの証明者から証明書を入手したら、「立替払請求書」と「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」に必要事項を記入し、証明書と切り離さないで労働者健康安全機構に送ります。
「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」は、税法上、立替金が退職金扱いとなり、税金の優遇を受けるために申告する書類です。
3.立替金の入金
立替払請求書を送付後、30日以内を目安に労働者健康安全機構から「支払通知書」が送られてきます。
支払通知書には、振込日と立替金額が記載されています。
事実上の倒産の場合
事実上の倒産とは、法的な倒産手続(破産など)をしていないが、実際には支払不能や債務超過など破たん状態にある状態をいいます。
1.労働基準監督署長へ認定申請
労働基準監督署長に対して、事実上の倒産状態にあることの認定の申請をします。(経営者が逃げて法的な倒産手続きがされてない場合など)
認定の申請は、他の労働者が行った場合は不要ですので、実際は労働者の代表が認定の申請をすることになります。
2.労働基準監督署長へ必要事項の証明を申請
労働基準監督署長に対して、立替払請求の必要事項についての証明を申請します。
3.申請書を労働者健康安全機構へ送る
労働基準監督署長から証明書を入手したら、「立替払請求書」と「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」に必要事項を記入し、証明書と切り離さないで労働者健康安全機構に送ります。
3.立替金の入金
立替払請求書を送付後、30日以内を目安に労働者健康安全機構から「支払通知書」が送られてきます。
支払通知書には、振込日と立替金額が記載されています。
立替金の税金は退職控除が受けられる
退職金は、退職所得として税金が少なくなるように配慮されていて、立替金は全額が退職所得となるので税金が優遇されます。
【 退職所得の計算式 】
((税金を引かれる前の退職金)-退職所得控除額)×1/2=退職所得の金額
【 退職所得控除額の計算式 】
〇勤続20年未満の場合
40万円×勤続年数(ただし、80万円未満の場合は80万円になります。)
〇勤続20年以上の場合
800万円+70万円×(勤続年数-20年)
退職控除の分は所得税が非課税になりますので、勤続年数が長くなれば非課税枠が増える仕組みとなっています。
退職金の税金については、以下関連記事で詳しく解説しています。
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実施状況
実際にどのくらい人たちが立替えによって救われたかというと、21,941人で金額にして83億6,140万円(平成28年度)にもなります。(出典:厚生労働省「平成28年度の未払賃金立替払事業の実施状況」)
未払賃金の立替払制度の案内書
労働者健康安全機構では、立替払制度のパンフレットを配布しています。
独立行政法人労働者健康安全機構「未払賃金の立替払制度のご案内」(別タブでPDFファイルが開きます)
自分の身を守る方法
未払賃金の証拠を用意しておく
未払賃金は、破産管財人などの証明者や労働基準監督署が証明金額が、実際の金額より少ないことも考えられますので、事前に勤務実績などのコピーを準備しておくことが重要です。
- タイムカード
- 出退勤時間を記録したもの
- パソコンのログアウト時刻を記録したものなど
- 賃金規則、退職金規定などの規則・規定類
倒産でバタバタしている時は、実際の勤務記録などが紛失されることもあるので、直近の勤怠記録をコピーで保管しておくなど「自分の身は自分で守る」ことが重要です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
会社が傾いてきて、「うちの会社は危険かも」と思うようになったら、出勤記録や会社規則などをしっかり抑えて、来るべき時に備えることが肝心です。
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